アデレード周辺のワイン産地を紹介した際にクナワラ(Coonawarra)を取り上げなかったため、「あれ、クナワラは?」と思った方もいるかもしれません。今回は、南オーストラリアを代表するワイン産地であるクナワラをじっくりご紹介します。
クナワラは、アデレードから車で約4時間、ビクトリア州との州境に位置する地域です。周辺には、世界遺産にも登録されている化石の洞窟で有名なナラコートや、美しいカルデラ湖で知られるマウント・ガンビアなど観光スポットが点在しており、連休を利用しての訪問がおすすめです。
この地域で生産されるワインの約半分はカベルネ・ソーヴィニョンです。バロッサバレーがシラーズの聖地なら、クナワラはカベルネ・ソーヴィニヨンの聖地といえるでしょう。カベルネ・ソーヴィニヨンは、フランス・ボルドー地方で有名な品種で、長期熟成が可能な高級ワインを生み出す品種の一つです。
ジョン・リドックとクナワラの歴史
クナワラがワイン産地として発展するきっかけを作ったのが、ジョン・リドック(John Riddoch)です。1827年にスコットランドで生まれたリドックは、1851年にオーストラリアに移住し、羊飼いとして生計を立てていました。彼は後にクナワラに広大な土地を購入し、「Coonawarra Fruit Colony(クナワラ果樹園)」を設立してブドウ栽培を含む様々な農業を推進しました。
リドックが特に注目したのは、クナワラ特有のテラロッサ土壌でした。彼はこの土壌がワイン造りに理想的であると信じ、1891年に最初の商業用ブドウ園を設立しました。これが現在のクナワラ・ワイン産業の礎を築き、彼の名はクナワラを縦に貫く幹線道路(Riddoch Highway)にもなっています。また、Wynns Coonawarra Estateで生産される「John Riddoch Cabernet Sauvignon」は、クナワラを代表するワインとして高く評価されています。
魅力的なテロワール – テラロッサ土壌
クナワラのワインが世界的に有名である理由の一つは、その特異な「テラロッサ(Terra Rossa)」土壌にあります。全長15km、幅2kmにわたる細長い赤土の帯が広がっており、ブドウ栽培に適した鉄分を豊富に含む粘土質です。この土壌は水はけが良く、ブドウに適度なストレスを与えることで、凝縮した風味とバランスの取れた酸味を持つワインを生み出します。
また、クナワラは海から80km離れているにもかかわらず、平坦な地形のために海風の影響が強い海洋性気候です。「ボニー湧昇流(The Bonney Upwelling)」の影響で、南極からの冷たい風が1月から8月にかけてこの地域に吹き込み、ブドウの成熟がゆっくり進むことで酸味が強くエレガントなワインが生まれます。この影響でライムストーン・コーストの海は、夏でもウェットスーツなしでは泳げないほどの冷たさです。
ワイナリーを巡る
クナワラには、多くの歴史あるワイナリーが点在しており、それぞれが個性豊かなワインを生み出しています。以下に、特にオススメなワイナリーをいくつかご紹介します。
Wynns Coonawarra Estate
クナワラを代表する名門ワイナリー。Wynnsはジョン・リドックが設立した「Coonawarra Fruit Colony」の一部を元に1891年に設立されました。セラードアの中には博物館さながらのクナワラのテロワールや歴史を語る展示物が置いてあり、この歴史的な建物と美しいブドウ畑も見るだけでも訪れる価値があります。
Katnook Estate
Katnook Estateもクナワラを代表するワイナリーの一つで、ジョン・リドックのビジョンを引き継いで発展してきました。カベルネ・ソーヴィニヨンはもちろん、ボルドースタイルの樽が効いたソーヴィニョン・ブランや上品な味わいのメルローが印象的でした。
Balnaves of Coonawarra
Balnavesは家族経営のワイナリーで、カベルネ・ソーヴィニヨンで高い評価を得ています。テイスティングの最後に出てくるスパークリング・カベルネ・ソーヴィニヨンが特に印象的でした。このワインは10の異なるヴィンテージをブレンドしたソレラシステムで熟成されており、リッチで複雑な味わいが特徴です。
クナワラ訪問時の注意
クナワラのほとんどのワイナリーは、幹線道路であるRiddoch Highwayに面しています。この道路は制限速度が110キロで、筆者が訪問した際もワイナリーを出た直後に衝突事故を目撃しました。運転の際は特に注意が必要です。
クナワラでの宿泊
今回の訪問で筆者は初めてグランピングを体験しました。ブドウ畑を望むキャンプ場にはバブルテントやベルテント、キャビンが設置されており、トイレやシャワーは共同ですが、ホテル並みの快適さです。ワイナリーツアーの出発点ともなっているので、前泊して朝からゆったりとワインを楽しむ週末はいかがでしょうか。
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